新宿三丁目という東京有数の商業集積地に建つ、地下1階・地上9階建ての商業ビル。敷地は十分な間口をもち、駅出口や主要な歩行者動線に近接することから、街路に対して高い視認性を有している。一方で新宿三丁目は、看板、照明、人流、用途が高密度に重なり合う都市環境でもあり、建築が過度に自己主張すれば、かえって都市の雑多さに埋没してしまう場所でもある。本建築では、建築が単独の像として前景化するのではなく、都市の情報量を受け止め、整理する側に回ることを目指した。
ファサードは、外周に立ち上がる円柱の反復によって構成されている。これらの円柱は構造体ではなく、既成のアルミサッシを外側から覆う半円状のパネルによって形成されている。円柱の内部には、セットバックによって生じたテラスや各階スラブ先端部からの雨水を処理する縦樋が内包されている。円柱を形成する半円状のパネルは脱着可能とし、設備のメンテナンスや将来的な更新にも対応できる構成としている。建物の両端部は、隣地からの延焼のおそれのある範囲に該当する。通常であればサッシ自体を防火設備とする必要があり、アルミサッシであれば階高の途中に無目が入り、スチールサッシにしても網入りガラスの使用が求められる。本建築では、延焼がかかる範囲の開口部内側に防火シャッターを設けることで、サッシを防火設備とせずに済む構成とし、法規への対応を立面上の分節として表出させずに、円柱が形成するファサードの透明性を獲得している。
ファサードを構成する円柱は、外部に対して視認される領域だけでなく、その内側に至るまでをオーナー工事として仕上げている。これは深沢の商業ビルで初めて試みた方法であり、ファサードの厚みそのものを建築の表現として捉える試みである。街路から連続して認識される範囲をオーナー工事で統一することで、テナントにとっても無理のない世界観の共有を図っている。円柱とサッシのあいだには、明確な境界は設けられていない。柱なのか開口なのか、外部なのか内部なのか、そのいずれとも言い切れない領域がファサードの厚みとして存在している。この境界の曖昧さによって、ファサードは図柄や表層ではなく、奥行きをもった構えとして成立している。
テナントビルとしての運営を整えるため、売場として直接的な収益を生まない機能は、建物全体の中で意識的に再配置されている。屋上には設備機器および法規上求められる駐輪場を集約し、街路やファサードにノイズを持ち込まない構成とした。一方で、リーシング上不利になりがちな中間階である4階には、各店舗の外部ストックとスタッフラウンジを設け、建物全体の運営を支える共用インフラとして位置づけている。また、低層部の1・2階は内部階段によって一体的に使用できる構成とし、限られたフロア構成の中でも立体的な商業空間を成立させている。
本建築では、全層にわたって、円柱が都市に対する前景となり、その奥に空間や活動が控える構成が採られている。7階までは円柱の内側にガラスが入り、その奥に室内空間が展開する。一方、8階以上ではテラスを作るためにガラス面がセットバックし、円柱の内側は外部空間として現れる。内外の別を超えて、都市と建築のあいだに奥行きをもった層をつくるこの構成は、構造ではない列柱によってファサードを形成する点で、ギリシア建築におけるストア(stoa)を想起させる。ストアは本来、列柱によって規定された一層の空間形式であるが、ここではその空間原理が各階に反復され、建築全体として多層的なストアとして立ち上がっている。列柱が都市に対する「顔」となり、その奥に活動や空間が控えるという関係は、低層階ではガラス越しに、上層階では外部空間として顕在化しながら、現代的な条件のもとで再解釈されている。
この列柱によるストア状の構成は、個々のテナントの表現や更新を許容しながらも、建築全体に一定の秩序を与える機能を担っている。雑多な商業活動が入り替わりながら展開する状況においても、都市に対して現れるのは、列柱によって抽象化された一つの構えである。活動を直接的に前景化させるのではなく、その背後に控えさせることで、個別の差異を受け止めつつ全体を整える。この多層的なストアの構成は、雑多さに埋没しないための装置として、商業建築が都市に対して取り得る一つの態度を示している。
- 敷地:東京都新宿区
- 竣工:2026.01
- 用途:物販+飲食店
- 規模:地下1階、地上10階
- 構造:鉄骨造 一部鉄筋コンクリート造、杭基礎
- 敷地面積 :197.50㎡
- 建築面積:143.37㎡
- 延床面積:1315.94㎡
- 施主:株式会社 三峰
- 設計監理 :小山光+株式会社キー・オペレーション
- 構造設計:構造設計工房デルタ
- 構造設計:コモド設備計画
- 施工:株式会社 佐藤秀
- 写真:矢野紀行


