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信濃町の集合住宅「ZOOM信濃町」

  • RESIDENTIAL

2025.07

東京都新宿区

外苑東通りに面した左門町の交差点に建つ集合住宅。信濃町駅と四谷三丁目駅の間に位置するこの敷地は、東西で用途地域が異なり、外苑東通りに面する東側は商業地域、裏側の西側は第一種中高層住居専用地域に指定されている。そのため、建物は大通りに向けて高層棟を設け、西側へ向けヴォリュームを段階的に抑えながら低層棟へとつなげている。

建物には20~50㎡台のワンルームや1LDKといったコンパクトな住戸が79戸集積している。高層棟の間口21mの中に6住戸を並べながら、裏側の高さを徐々に下げるために、構造フレームは耐力壁のない、キャンティレバーを駆使した純ラーメンとRC造となった。各住戸も間口はコンパクトに押さえながらも、開口部の配置や視線の抜け、光の取り込みなどが丁寧に設計されている。
外苑東通り側の高層棟では、共用廊下を内部廊下とすることが求められたが、西側に面しているため、開口部の少ないファサード構成となった。この閉じた壁面に対しては、各階のスラブラインを外部に引き出し、水平ラインを強調することで、住居地域側に対して建物全体のスケールを抑える工夫がなされている。

大規模な集合住宅では、各住戸からの効率の良い避難のため、隔て壁を蹴破って避難ハッチを共有できる様に住戸の前面に連続するバルコニーを設けることが多い。しかしながらファサードの意匠としてはバルコニーを前提としなければならず、特に小さな住戸が並ぶこの集合住宅では、隔て壁によってファサードでも住戸の小ささがことさらに強調されてしまう。また、オーナーが一棟丸ごと所有する小規模な集合住宅であれば、バルコニーを無くしても、空調の室外機はまとめて屋上に設置できるが、分譲集合住宅の場合、空調機は個々の管理になるため、室外機置き場としてもバルコニーは必要である。
このプロジェクトでは、色と素材の組み合わせによって、ファサードを2つの要素に切り分けている。バルコニーは敢えてアルミのソリッドな濃いグレーのパネルで覆い、中の空調室外機を隠し、そのパネル、その背面の壁、給湯器など全て濃いグレーで塗装することで、この集合住宅の中で強調したくない要素を一体化して存在を目立たせないようにしている。
本計画では、外苑東通りの対面に同程度の高さの建物が連続して並ぶ都市条件が特徴的である。このような前面建物とビューが正対した環境においては、プライバシーへの配慮が不可欠であり、新宿御苑前の集合住宅のように線材を用いたルーバーではなく、密度を持たせた「束ねられたルーバー」を用いることで、より明確な遮蔽性とファサード面の存在感を実現している。
このルーバーは、視線制御だけでなく、東側からの日射の遮蔽としても機能している。面材としてしまうとバルコニーの一部の開放性が認められず、面積に算入されてしまうが、束となったルーバーであれば、面材のように機能しながらも、面積には算入されない。
一方でこのルーバーは建築の表情をかたちづくる要素ともなる。日中には、シルバーのルーバーに空の色が映りこみ、繊細な陰影をつくり出しながら、内部空間にも落ち着いた光を提供する。夜には、内部の光がルーバーの隙間からこぼれ落ち、都市に対して控えめな様相を示す。このルーバーは建物全体に軽やかさと繊細さを与えながら、立面全体にスケール感と秩序をもたらしている。
本計画は、法的制約や構造、設備、経済的条件から作られる建築的なヴォリュームにたいして、籠のようなレイヤーを纏わせることによって、内部の合理性を包み込みながら、外部に対して繊細で秩序あるファサードを形成し、密度の高い都市環境においても、周囲との距離感や接し方を繊細に調整する集合住宅の新たな可能性を示したものである。

  • 敷地:東京都新宿区
  • 用途:共同住宅
  • 竣工:2025.07
  • 事業主:株式会社 トーシンパートナーズ
  • デザイン監修:株式会社キー・オペレーション
  • 設計施工:藤木工務店
  • 写真:矢野紀行
  • 敷地面積:599.87 ㎡
  • 建築面積:446.51 ㎡
  • 延床面積:3,761.01 ㎡

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