PROJECTS

深沢の商業ビル

  • COMMERCIAL

2025.04

東京都世田谷区

駒沢公園通りに面した交差点の角地に建つ本計画は、地域の都市的なスケールの中で、素材感や構成を通じて周辺環境との親和性と存在感の両立を試みた商業建築である。

敷地は二面接道で、交差点角を活かして1階に店舗エントランスを設けることで、歩行者の動線と視認性を高めた。また、南側隣地には世田谷区立深沢区民センターのエントランスがあり、その前面スペースを広場状に活用していることから、上階の共用ロビーはそちらに面するように配置した。建物の2つの顔を活かすアプローチの構成とし、敷地条件を最大限に引き出す平面計画を行っている。

 

計画に際しては、条例により延べ面積が500㎡を超えると複数の規制が課されるため、建物は500㎡以内に収めることを基本方針とした。限られた容積の中でテナントリース面積を最大限効率よく確保するため、避難用のバルコニーは側道側に集約した。1階には緑化条例に対応した植栽帯を設けて通りと調和を図りつつ、条例で求められる駐輪スペースについては、自転車対応のエレベーターを導入し、屋上に配置することで1階の有効面積を確保した。

 

ファサードは、店舗としての視認性と都市への応答を両立させる重要な要素として計画初期から複数案を検討した。全面を水平帯状のガラスで構成し、内部の様子を街に開く案、パネルをリズミカルに配置し店舗内の壁を増やす案、そして構造体の丸柱をファサードに現し、街に対して奥行きとリズムを与える案などが挙げられた。最終的には、直角に梁が交わらない構造上の合理性を保ちつつ、街路に対して象徴的な立ち姿をもたらす「丸柱案」が選択された。リース面積がやや減少するものの、サッシラインを柱芯まで引き込むことで生まれる陰影の深さやスケール感が重視された。

 

鉄骨の丸柱は耐火被覆のうえに蒲鉾型のアルミパネルで覆い、さらにコールテン鋼風の特殊塗装を施すことで、経年変化を感じさせるような重厚な素材感を演出している。これらの丸柱はファサードだけでなく、各階のスケルトン仕様のテナント内部においても同様に仕上げを施すことで、建物全体として一貫した空間の質と印象を保っている。用途や内装デザインが変化する可能性のあるテナントに対しても、この柱が建築の骨格として統一感を担保し、外観と内観を横断する建物のアイデンティティを形成している。

 

1階は4mの天井高を確保し、スチールサッシによる大開口を設けることで街に対して開かれた表情を持たせ、テナント空間の魅力を高めている。2階以上は既製のアルミサッシを用いつつ、サッシの無目ラインとバルコニー手摺の高さを揃えることで、階層を超えたファサードの統一感と水平性を生み出している。サッシラインをセットバックさせて生まれた軒裏仕上げにはレッドシダーを採用した。これにより歩行者の視線が自然と上向いたとき、温もりある木の素材が視界に入り、都市の中に穏やかな表情を添える仕掛けとなっている。

また、バルコニーの手摺も同様に後退させ、手摺前面には植栽設置の余地を設けている。これにより、地上階のみならず上層階においても緑化が可能となり、建物全体としての環境的付加価値も高めている。

 

駒沢公園通りは、駒沢大学や深沢キャンパス、東京医療センターなど教育・医療施設が点在する地域を貫く幹線道路であり、交通量も多い。自動車の往来だけでなく、自転車や歩行者も頻繁に行き交う環境のなかで、本計画はその立地にふさわしい都市的な存在感を放つ建築として設計された。素材感に富んだファサード、軒裏の陰影、そして丁寧に整えられたバルコニーの設えが、都市の風景に静かに輪郭を与えている。

 

制度的制約の中で最大限の機能性と表現性を確保しながら、敷地特性や街路との関係に応答することにより、この建築は、深沢の風景に新たなリズムと素材感を与えている。角地という都市の接点において、開かれたファサードと細やかな設えによって、人と街の関係を調整しながら、訪れる人々に豊かな体験を提供する建築となることを目指した。

  • 敷地:東京都世田谷区深沢
  • 用途:飲食店
  • 規模:地上6階 (R階含)
  • 構造:鉄骨造、杭基礎
  • 敷地面積:164.33 ㎡
  • 建築面積:111.04 ㎡
  • 延床面積:498.06 ㎡
  • 意匠設計:小山光+ キー・オペレーション
  • 構造設計:構造設計工房デルタ
  • 設備設計:イーエスアソシエイツ
  • 施工:株式会社TH-1
  • 写真:トロロスタジオ 中村マユ

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