
新御徒町駅から徒歩3分の敷地に建つ位置する地上9階建、全39戸の集合住宅。周辺には江戸期から続く問屋街や町工場が点在し、碁盤目状の区画と低層建物が織りなす街並みには、今なお下町情緒が色濃く残る。近年は高層マンションの建設が相次いでおり、スケール感や景観の分断が進む中で、この集合住宅は「都市と住まいの関係性」を再構築する試みとして構想された。
一般的な都市型マンションにおいては、ファサードがバルコニーによって支配され、空調室外機や給湯器などの設備機器、日用品が露出することによって生活感が表出し、都市に雑然とした印象を与えてしまうことが多い。またそのスケールは建物内部の小さな住戸単位に呼応しがちで、周囲の街並みに対する調和が難しいという課題がある。こうした背景を踏まえ、本計画では生活感をにじませすぎず、かつ閉鎖的にならないよう、開口部のサイズと配置、外装の色彩、建物全体のプロポーションの調整を通じて、落ち着きと秩序ある都市的な佇まいを追求している。バルコニーの手摺には縦格子を採用し、外からの視線を適度に遮りつつ、風や光を通し、内部の開放感を保つ設計とした。
また、本計画では単に物理的な外観の整備だけでなく、「共生の風景」を建築に内包することを目指した。1階には街に開かれた前面の緑化空間と、住人誰もが自由に滞在できる共用ラウンジを設けている。ラウンジは仕事や読書、軽い打ち合わせや一息つく休憩など、目的を限定せず多様な使い方を許容する場である。その日の気分や過ごし方に応じて自ら距離感を選べる構成となっており、偶発的な視線の交差や軽い挨拶をきっかけとした小さな共感が生まれる。過度に開かれすぎず、かといって閉ざされることもない、現代の都市生活者が求める「にじむような関係性」を宿す空間である。周辺に緑の少ない立地であることにも配慮し、前面の緑化空間はポケットパークとして街に開かれ、地域住民の憩いの場としての役割も担う。
こうした空間構成を支える素材使いにおいても、街に穏やかな表情を与えるための工夫がなされている。バルコニー内部や共用廊下の壁面には、ウッドグレイナー塗装を施している。これは、コンクリート面に目地を入れ、淡い下地色の上に濃色を塗布し、乾かないうちに木目刷毛で掻き取ることで羽目板のような木目模様を転写する技法である。刷毛の角度や力加減によって模様の表情が変わるため、同じものは二つとない。フェイクでありながら手仕事の痕跡が感じられるこの仕上げは、均質な都市空間に温度や個性を付与し、触覚や記憶に働きかける要素として、都市における人と建築の関係を再接続するひとつの方法である。
住戸プランは1DK〜2LDKと多様で、単身者やDINKSを主な対象としながらも、多様な暮らしに応える柔軟な構成となっている。収納力の確保、引き戸を活用したフレキシブルな使い方、シンプルで使いやすい水回り計画など、細部にわたって居住者の快適性と可変性に配慮が施されている。
本計画では、「私的領域と都市をつなぐ」ことを重視している。建物全体が街に対して過剰に主張することなく、スケールや質感、使われ方において都市と対話する存在として成立するように計画された。これは、集合住宅という形式が都市の建築ストックの大半を占める今日において、都市景観の一部として何を提示できるのかを問い直す試みでもある。住まいが都市と人の関係を調停する装置であるとするならば、その設計には、外観・空間・素材・運用すべてのスケールで共生を構築する意思が求められる。本計画はそのひとつの具体例として、都市における新しいコミュニティを形成できる集合住宅のあり方を示している。
- 敷地:東京都台東区
- 用途:共同住宅
- 竣工:2024.06
- デザイン監修:キー・オペレーション
- 設計監理:シティデザイン一級建築士事務所
- ランドスケープデザイン:いろ葉デザイン
- エントランスホール植栽:緑演舎
- 施工:新三平建設
- 写真:矢野紀行
- 敷地面積:370.10 m2
- 建築面積:216.76 m2
- 延床面積:1620.63m2



















