PROJECTS

十全化学本社社屋

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2023.03

富山県富山市

十全化学は医薬原薬の受託製造などを行っている1950年に創業された富山市の企業で、神通川と富岩運河の間に位置する工業団地の中に各種プラントのある4つの工場棟、研究棟等が展開されていた。将来の事業展開の為に各建物の機能を整理し、散らばっていた事務機能、会議室、食堂を集約した新社屋が計画された。富山は、南北にのびる本州の中央北部に位置し、立山連峰などの急峻な山岳地帯から流れ込む豊かできれいな水と、日本海に面した富山湾は豊かな自然の恵みと、漆器、薬、ガラスなど多種多様な文化と産業を生み出している。豊かな森林資源と豊かな水がもたらした北前船の水運によって「富山の売薬」を生み出した薬文化が形成された。

新社屋の設計を始める前に十全科学の各部署から年齢性別が多様な社員が集まり、数回に及ぶワークショップを重ねて、今回の新事務所のテーマは何か、現状の事務所の問題点、どのように改善していきたいか、新しい働き方のモデルを考えた。ワークショップで十全化学の重要なカルチャーとして認識されたのは、様々な部門の社員が自由な交流を大切にしていることだった。しかし現状では交流を培うため場所が足りないこと、また個人が集中して作業できる場も足りないことも分かった。そのため新社屋では「集中(solo)」・「交流(collaboration)」 の「切り替え(switch)」が出来る場が実現できるようにオフィス全体のゾーニングを構築していった。また立山連峰や富山の豊かな自然を感じられる社屋にして来客に富山をアピールしたい、ここで働きたいと思わせるデザインにして新しい仲間を募りたいという要望もあった。

敷地のある街区の角には民家があり、もう一方の角は小さな公園になっているため、敷地はクランクした形状となっている。道路幅員の広い前面道路側は5層にすることができたが、隣接した住宅への朝日を遮蔽しないように配慮しつつ、社屋自体に自ら影を作らないように南側のファサードをフラットにした結果、建物の平面形状はL字型となり、隣接した公園のオープンな空間を覆う形となった。周りの工場群は、機能上、窓のない高い壁で覆われている。そのためそれぞれの工場の間は配管で繋がれるものの、ヒューマンスケールで繋がる空間はほとんどない。この社屋は工場棟とは対照的にガラスファサードとして周辺の工場群全てを見渡せるようにして、職員が働いている工場群と空間的に繋ぐことを試みている。さらには西側の神通川、東側の立山連峰とも視覚的に繋げて、富山全域との連続性を感じられるようにした。

ガラスファサードの前にはバルコニーを設け、仕事の合間に外に出てリフレッシュできるようにした。その結果、平滑なファサードの工場群とは対照的な陰影のあるファサードとなり、ペリメーターゾーンの環境調整装置としても機能している。バルコニーは庇のように夏の室内への日射を遮断するが、日射角度が低くなる冬は日射を取得して、冬の暖房負荷を下げる事ができる。西日が入る階段部分にはグリーンスクリーンを設置して、日射を遮るようにしている。また火災時に2つある階段に何かしらの問題があった場合でも、この全周にあるバルコニーからの救助が可能である。春秋の中間期は積極的にバルコニーに面した窓を開けて、この地域に吹く北東からのあいの風を執務空間内に取り入れる事ができる。各階に入った風は中心の階段室を通って最上階の5Fへと抜けていく。

ハザードマップによると、敷地は神通川の氾濫域に位置するため、社屋のメインのワークエリアやミーティングルーム、食堂などが入った建物ヴォリュームは、2Fの床が浸水しない程度に地面から持ち上げて、1Fの大部分をピロティとした。1Fには受付と取引先と簡単な打ち合わせが出来るミーティングルーム、社屋と工場群全体を管理する総務部のワークエリアを配置した。また十全化学の取り組みを訪問者に広く知ってもらうためのギャラリースペースも設けた。社屋の垂直動線は、L字の平面の中心に配置して、効率よく各フロアにアクセスできるようにしている。2Fには営業部、生産企画部、製造部、経営企画室といったメインの部署のワークエリアとした。垂直動線が通る中央部は社員同士がコミュニケーションを取り、気分を切り替えてリラックスできるワークラウンジとしている。3Fには本社屋で働く社員だけでなく、工場群で働く社員も集まる食堂がある。社員の満足度を高めるだけでなく、健康管理や社内外のコミュニケーションの活性化にもこの食堂は役立つ。工場にいる社員もただ食事をして戻るだけでなく、リラックスが出来る様に、食堂内にラウンジエリアを設けた。4Fには2Fの部署と独立した経理部、情報システム部を設けた。また社長室と応接室からは近くの環水公園と立山連峰を望む事ができる。ライブラリーラウンジには社長や社員が薦める書籍を置いて、昼食後に社員と社長が気軽にコミュニケーションを取り、自習をすることもできる。ライブラリーラウンジからはルーフテラスに出る事ができ、気候の良い時は立山連峰景色を眺めながら、外で食事をし、散歩することもできる。夏はビアガーデンやBBQパーティを催して、社内外の交流を活性化することもできる。5Fは社内、および取引先とのミーティングに使用される大小のミーティングルームを設けた。ELVの前のスペースは来客用のミーティングラウンジがあり、4Fの屋上テラスやその他の工場群を眺めることができる。ミーティングルームにアプローチする廊下はペリメーター側にあり、窓を開ければバルコニーに出ることができる。東側の大きなミーティングルームからは立山連峰を望む事ができる。

ワークエリアの天井は国産針葉樹のルーバーを設置して、天井内設備機器を隠しながら木材の質感で自然で温かみのある空間とした。このルーバーは準不燃にする必要があったが、注入式の場合、節のないA材にする必要がある。そこでよりコストも安く素材感もある節ありのB材やC材でも準不燃にできる塗膜タイプとしている。この塗膜タイプは認定上松材にする必要があったため、国産の唐松を採用した。天井をルーバーとしたことで、将来的な設備更新や配線を増やすことが容易になっている。空調器は通常の天井カセットタイプをルーバーの上に設置しているが、フィルター清掃の時にはその部分のルーバーが容易に外せるようにしている。ルーバーの間隔は隙間に照明が入るように、間が100mm開くようにした。このルーバーは窓サッシを超えて外部の軒裏へ連続して、バルコニーのために突き出したスラブの軒下を覆って寺社の屋根の手先のような、特徴的な陰影のある外観となっている。内部の天井懐から外部へ突き出している吸排気口などの設備もこのルーバーで覆われている。夜にはデッキの手すりに仕込まれた照明器具でこの軒裏の木製ルーバーはライトアップされる。ピロティの天井部分もこの木製ルーバーで覆われ、富山の薬の原料を運んだ北前船の船底のような佇まいとなっている。

風が抜けるピロティ空間には車寄せや駐車場だけでなく、薬になる木々や様々な草花が植えられ、医薬品業界の中で地球規模の視野で製品を作る薬品の原点を見つめ直すことができる。車寄せの融雪やピロティやデッキの植栽の灌水には北アルプスから神通川を通して富山湾に流れ込む地下水を井水として汲み上げて使用している。町内会で管理している隣接した公園も同時に整備して連続させることで、社員だけでなく、近隣住民や訪問者も散策できる憩いの空間としている。

 

長編解説動画 46:43 2023.12.08  プレミア公開

短編動画 3:46

プロジェクトの歩み 4:58

 

  • 敷地:富山県富山市木場町
  • 用途:事務所
  • 竣工:2023.03
  • 施主:十全化学株式会社
  • 設計:キー・オペレーション+パーク・コーポレーション設計共同体
  • 建築設計:キー・オペレーション
  • 内装設計:パーク・コーポレーション
  • 構造設計:デルタ構造設計工房
  • 設備設計:コモド設備計画
  • 照明計画:LIGHTLINKS

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