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五色台メモリアルパーク樹木葬墓所 森の墓園「語らいの小径」

  • CULTURAL

2023.10

和歌山県紀美野町

五色台メモリアルパークの樹木葬墓所。2021年に竣工した1期工事では274基、2022年に竣工した2期工事では105基、2023年に竣工した3期工事では600基の墓所を備えた。
従来の一般墓は、石碑が整然と並ぶ無機質な風景を形成してきた。少子高齢化や核家族化の進行によって継承者の不在や管理の負担が顕在化し、墓所の販売は伸び悩み、運営の持続性が問われる状況も生じている。一方で、近年増加している樹木葬墓所も、整形された花壇状の区画に象徴木を植えるだけの定型的な形式が多く、自然との共生や遺族の感情に寄り添う空間にはなりきれていない。

本計画では、造成によって一度平坦化された山林の一角に、森の風景を再生することから設計を開始した。起伏や奥行きのある地形を生かし、その中に語らいの小径を通し、島状・半島状に埋葬地を配置することで、接道できる墓所の数を増やすと同時に、歩くごとに風景が変化し、自然の中で故人と向き合う静かな時間が生まれる構成とした。北側には家族用の納骨棺を、南側には自然に還る和紙製の骨壺を用いた個人向けの埋葬地を配し、環境との循環関係を設計に組み込んでいる。

小径には視線や導線の調整を施し、歩みの速さや滞在時間に応じた記憶と感情の重なりを促す空間構成とした。また、道の途中には語らいや黙想、読書や休息に対応する余白として、ひとつの東屋を設けた。東屋は単なる休憩施設ではなく、風景と一体化した記憶の装置である。溝型鋼で構成された柱と梁は、屋根に降った雨水を開放竪樋として足元のポーラスコンクリートに導き、自然循環と接続する建築となっている。

敷地にはケヤキ、クヌギ、シラカシ、紅葉を見せるヤマモミジやイロハモミジ、春の花を咲かせるウメ、ヒガンザクラ、ソメイヨシノ、香りを添えるキンモクセイやヤマボウシなど、多様な樹種を植栽した。足元には山野草が広がり、時間とともに成熟する森の風景をつくっている。これらの植物群は視覚的変化だけでなく、訪れる人々の感情に作用し、日常から祈りへの心の移行を助けている。

墓標には、宮城県大蔵山で採掘される伊達冠石を使用している。一般的な定型墓石ではなく、色や形、表情の異なる小さな岩盤石を「想いのみちしるべ」として個別に選び、それぞれの区画に設置している。自然に調和したそれらの石は、故人ごとの記憶を風景に溶け込ませ、集団としてではなく個の祈りが丁寧に浮かび上がる場をつくり出している。小径の入り口には伊達冠石の巨石を用いたモニュメントを設け、霊場高野山に向けて穿たれた風穴に耳をあてることで、大地の音を聴くという静かな対話の体験を可能にした。

この墓所では、散策によって他者と交差し、視線の交わりを通して緩やかにつながる空間のなかで、記憶や感情と自然に向き合う機会を創出している。自然の四季に包まれた風景は訪れる人の心を支え、身体の緊張をほぐし、日常とは異なる時間をもたらす。墓所を閉ざされた個人の場所とせず、利用者以外の訪問者も受け入れる開かれた風景として構成し、公共的空間への拡張を意図している。今後もこの設計思想を通して、祈りと自然が重なり合う新しい弔いの風景を社会に提示していく。

 

五色台メモリアルパーク樹木葬墓所森の墓園「語らいの小径」ショート動画 1:00

  • 敷地:和歌山県紀美野町
  • 用途:墓地
  • 竣工:第1期工事2021.03/第2期工事2022.07/第3期工事2023.10
  • 東屋構造設計:構造設計工房デルタ
  • 施工:メモリアルアートの大野屋、紀の国緑化造園土木
  • 東屋施工:赤土建設
  • 石碑製作・モニュメント墓標:大倉山スタジオ
  • ブランドコンセプト:小川彩
  • 面積:2098㎡
  • 撮影:市川靖史 / 高野友実

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