
富山駅から徒歩10分ほどの住宅街に計画された、家族3人のための住宅。60年ほど前に施主の祖父が建てた日本庭園付きの大きな住宅は、施主の母親が引っ越してからは使用されていなかった。しかし、施主の家族で住むには部屋数が多すぎ、日本庭園も多くのメンテナンスが必要だったため、現在の家族構成に適した家に建て替えることとなった。敷地が広いことから、将来的に敷地を分割して子供の家族が家を建てたり、土地を売却する可能性も考慮し、敷地を東西に分け、両方が南面道路に接するように計画した。そして、売却しやすい東側の角地を庭として利用し、西側に家を建てる設計とした。
南北に細長い敷地の配置案として、長いシングルボリュームの案、L字型の案、南北に2つの棟を並べる分棟案、各部屋を棟として構成する連棟案を検討した。シングルボリューム案は、敷地の東側に庭が広がる場合は良いが、東西を隣家に挟まれた場合、窓から見える外部空間の環境が悪くなる。L字案では東側に外部空間を確保できるが、建物の幅が狭くなりすぎ、西側の隣家に近くなるため、細長い敷地の中で隣地との間隔を広げることができる分棟案と連棟案の可能性を探ることになった。連棟案は中央に枝状の空間が生まれるため魅力的だったが、2階建ての場合、各棟をつなぐ廊下スペースが発生してしまうため、最終的に三棟を並べる形となった。手前から駐車場のあるパーキング棟、1階に水回りとキッチン、2階に趣味の部屋があるサービス・ホビー棟、1階にリビング、2階に寝室のあるリビング・ベッド棟を南北に並べる設計とした。
道路側のパーキング棟とサービス棟の間には坪庭を設けた玄関ホールがあり、駐車場や駐輪場、シューズクロークへのアクセスを良くしている。玄関ホールには祖父宅にあった校倉の木壁や土間の石、窓際に無垢材のカウンタートップを再利用している。玄関ホールは水回り棟を貫通する廊下に繋がっており、壁一面に設置された本棚が蔵書を収めている。廊下の左右にはファミリークローゼット、ランドリー、洗面、風呂、トイレ、ゲストルーム、パントリー、キッチンが並び、機能的に繋がっている。
廊下を抜けると、サービス棟とリビング棟の間にある吹き抜けのダイニングルームに出る。ダイニングの西側には階段があり、階段前の大きな開口部はセットバックによって得られた坪庭に面している。階段下のスペースは床を下げ、ペットの寝床を設けた。東側にはウッドデッキが設けられており、現在は広い庭が広がっているが、将来的に隣地に家が建つ場合でも、東側にもプライバシーのある坪庭ができるように配慮されている。ダイニングに隣接するリビングは、耐震等級3を確保するために必要な耐力壁で2つの空間に分けられ、応接室と、リラックスしてテレビを楽しめるエリアに分かれている。吹き抜けに面する各棟の2階には家族の寝室やスタディルーム、音楽室などがあり、吹き抜けを通じて家族間の適度な距離を保ちながらも一体感を感じられるよう配慮している。
この住宅では、地球環境への負荷を考慮し、サステナブルで快適な空間を目指した。構造は木軸にグラスウールを充填し、その外にスタイロフォームを施した負荷断熱を行い、ペアガラスの木製サッシを使用して断熱等級6(Ua値0.43W/m²・K)を達成している。空調には全空気式床ふく射冷暖房システムを採用し、エネルギー効率の高いヒートポンプから供給される冷暖気を床下に回し、床に埋め込まれた金属輻射パネルによって室内の温度差を抑えた快適で穏やかな空調環境を実現している。
外壁は当初、左官仕上げを予定していたが、工事中に大きな地震が発生したこともあり、地震の動きに追随できるセメント系窯業板材を使用した下見張りに変更した。下見張りにしたことで、大きな外壁面が小さな要素で構成され、周囲への圧迫感を軽減している。玄関ホールやダイニングに面する壁には外壁材を内部にも連続させ、各棟に挟まれた外部空間のように見せることで、より開放的な印象を与えている。木製のパーゴラは、各棟の隙間にある開口部の東西の日射を調整し、積雪時に窓際に落雪させない役割も果たしており、三棟に面する外部空間を繋ぐ役割を担っている。
- 敷地:富山県富山市
- 用途:住宅
- 竣工:2024.10
- 規模:木造
- 敷地面積:601.03㎡
- 建築面積:261.67㎡
- 延床面積:361.68㎡
- 設計:小山光+キー・オペレーション
- 構造設計:構造設計工房デルタ
- 設備設計:コモド設備計画
- 施工:三由建設

















































